社会保険労務士は、労働・社会保険に関する法律、人事・労務管理の専門家と全国社会保険労務士会連合会のホームページと紹介されていますし、私の事務所のホームページにもそう書いています。

中小・小規模企業では人事管理と労務管理と特に分けて考えないことが多く人事・労務管理と表現していますが、どちらかと言うと社会保険労務士は労務管理の専門家ではないでしょうか。

労務管理の細目は「人事企画」「雇用管理」「賃金管理」「OJT計画」「Off-JT計画」「自己啓発支援計画」「労使関係」「就業管理」「安全衛生」「福利厚生」などがあります。

では、どのような根拠で社会保険労務士は労務管理の専門家と言えるのでしょうか?

社会保険労務士法第2条第1号から第1の3号で、労働社会保険諸法令に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、異議申立書、再審査請求書その他の書類を作成、手続代行、代理すること、同2号で労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成することが規定されてます。

これらは社会保険労務士の独占業務であり、報酬を得てこれらの業務を社会保険労務士以外が行った場合、社会保険労務士法違反となり、罰則が適用されます。

同3号には、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導することと規定されており、これが「社会保険労務士は労務管理の専門家」である根拠になります。

しかし、3号業務と呼ばれるこの業務は社会保険労務士の独占業務ではありません。

厚生労働省が発表した『キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力』の中に雇用管理(労務管理)の知識の強化があり、そのため各キャリアコンサルタント評価試験を実施している民間機関はその試験で労務管理の科目内容を増やしています。

国家資格の中小企業診断士、民間資格の産業カウンセラー、キャリアコンサルタント(CDAなど)も他の専門分野を持ちながらも労務管理の専門家と言えるわけです。(さらに言えば何ら資格は必要ありません)

懐かしい言葉を使えば「社会保険労務士」であることは「労務管理の専門家」であるための必要十分条件ではないと言えます。

では、キャリアコンサルタント(キャリアカウンセラー)が相談業務を受けている中でパートタイマー契約のため、正社員と著しく不利益な労働条件のため会社との間でパートタイム労働法に基づき都道府県労働局が行う調停の手続を進めたいと決意している場合にキャリアコンサルタントはそのまま相談業務ができるのでしょうか?

「社会保険労務士があっせん等の補佐人となれるか?」でも書いているように、あっせん、調停を行うことを決意したクライアントに対しては(特定の付記のない)社会保険労務士でさえ相談業務を継続できません。

弁護士法第72条に弁護士で無い者は、紛争に介入し、交渉を代理して行なうことは出来ないと定められております。

弁護士法第72条
弁護士でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りではない

個別労働紛争となれば、この弁護士法第72条に違反することになります。

社会保険労務士法第2条第1の4号から第1の6号で、労働局紛争調整委員会等が行うあっせん、調停などは弁護士法72条に定める「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りではない」にあたります。

但し、特定の付記のある社会保険労務士、特定社会保険労務士でないとこの業務を扱う事はできません。

紛争性があるかどうか。労務管理を扱う全ての専門家は注意しなければなりません。